カンジダ
細菌性膣症
2020.06.15
特集
低用量ピルを始めたいけど、副作用が怖い、人工的に排卵を止めても将来的に大丈夫か?など、日々の診療の中でピルに関する質問はかなり多いです。
低用量ピルを始めたいけど、何を選んだら良いのか?副作用はどうなのか?など気になりますよね。
低用量ピルにはいろいろ種類があり、それぞれに特徴がありますのでその解説と、後半は、ピルに関する質問をQ&Aでなるべくわかりやすく説明します。
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ピルの開発の歴史は、今から100年くらい前にさかのぼります。その頃は、望まない妊娠の結果、子だくさんになり経済的な貧困を招いたり、人工妊娠中絶の失敗により命を落とす女性も多く、そのような悲劇から女性主導でできる確実な避妊法の必要性を、マーガレット・サンガー女史らが強く訴えていました。サンガー女史らは、はじめペッサリーによる避妊法を普及させようとしましたが、「受胎調節は神に背く行為だ」として、社会的に猛反発を受けました。
そんな時、サンガー女史は、ある晩餐会で「ピルの生みの親」であるグレゴリー・ピンカス博士と出会い、自身の信念を話したところピンカス博士は心を打たれ、「妊娠している間は胎盤から黄体ホルモンが大量に出るので排卵が起こらない」ことをヒントに研究を開始しました。
1955年東京で開催された国際家族計画会議において、黄体ホルモン製剤(プロゲスチン)を投与した臨床試験を発表し、確実な避妊効果が得られることを証明しました。これが、経口避妊薬の原型となり、臨床試験を重ねて商品化しました。しかし、初期のピルは黄体ホルモンの量が多く、妊娠中の「つわり」に似た悪心や嘔吐の症状が強く現れたため飲めない人が続出し、少量で強力な活性を持つ合成黄体ホルモン製剤が開発されました。しかし、血栓症や乳がんのリスク、肝障害などの副作用が相次いで報告され、今度はエストロゲンの量が問題になりました。
そして血栓症のリスクを減らすために、一錠あたりのエストロゲン含有量を50μg未満にするように勧告が出され、低用量ピルの開発につながりました。
「ピル=副作用」というイメージがもしあるとしたら、かつての中用量以上のピルのイメージです。現在主流の低用量ピルは、避妊効果を保ちつつ副作用をできるだけ抑えて製造されています。
「ピルは種類がいっぱいあってよくわからない」という質問が多くあります。
経口避妊薬としてのピルには、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲスチン)の2種類の女性ホルモンが配合されています。
エストロゲンの量による分類、黄体ホルモンの種類による分類、配合されているホルモンパターンによる分類があり、それぞれに特徴がありますので、自分の身体に合ったピルを選ぶことができます。
エストロゲン含有量により高用量ピル、中用量ピル、低用量ピル、超低用量ピルに分類できます。エストロゲン含有量が多いほどより治療的な意味合いが強くなります。
例えば、多量の不正出血を止めたいときには中用量以上のピルを短期間処方して応急的に止血して、貧血の進行を防止します。
また、先発医薬品と後発医薬品(ジェネリック医薬品)は、含まれる成分は同じですが、ジェネリック医薬品の方が安価です。
表2. 先発医薬品と後発医薬品(ジェネリック医薬品)
・第1世代:ノルエチステロン(NET)
古くから使用されている合成黄体ホルモン製剤(プロゲスチン)で黄体ホルモン活性・アンドロゲン活性が最もマイルドで、ニキビや肌荒れの改善効果があります。シンフェーズ®、
ルナベルLD/ULD®、フリウェルLD/ULD®に含まれています。
・第2世代:レボノルゲストレル(LNG)
第1世代で不正出血の頻度が高かったため、内膜維持作用を増強するために開発されたプロゲスチン。しかし、黄体ホルモン活性とともにアンドロゲン(男性ホルモン)活性も強くなったため、トリキュラーとラベルフィーユは、服用前半の黄体ホルモン量を少なくし、後半にかけて段階的に増やす方法(3相性)で、副作用とアンドロゲン量を減らす工夫がされています。
トリキュラー®、ラベルフィーユ®、アンジュ®、ジェミーナ®に含まれています。
・第3世代:デソゲストレル(DSG)
第2世代でアンドロゲン活性が強まったため、プロゲスチン活性を強めて相対的にアンドロゲン活性を抑え、第2世代に比べて肌荒れやニキビに対する副次的効果があります。
マーベロン®、ファボワール®に含まれています。
・第4世代:ドロスピレノン(DSPR)
第3世代までのプロゲスチンは性ステロイドを元に合成されていましたが、ドロスピレノンは利尿ホルモンを元に合成され、弱い利尿作用を有しアンドロゲン活性がほとんどないのが特徴です。したがって、ニキビやむくみに対する副効用が期待でき、月経困難症、子宮内膜症の治療薬として、海外では月経前気分不快障害の治療薬として認められています(日本では未承認)。ヤーズ®に含まれています。
ヤーズは偽薬期間が4日間と短いので血中のホルモン変動が少なく、頭痛や乳房痛が起きにくい反面、エストロゲンが20㎍の超低用量ピルのため不正出血の頻度が他の低用量ピルよりも若干多い印象です。また、重大な副作用である静脈血栓症のリスクが、他の低用量ピルよりも高いことが報告されています。
表3.プロゲスチンの世代と活性について
*ノルエチステロンを1.0としたときの相対的プロゲステロン活性(高いと不正出血が起こりにくい)
**ノルエチステロンを1.0としたときの相対的アンドロゲン活性(低いと男性化徴候が出にくい)
表4.ピルの世代別のパール指数(避妊効果)
(パール指数:100人の女性のうち使用1年間で何人妊娠するかを表したもの。指数が低いほど避妊効果が高い。コンドームのパール指数は2~15)
※EE:卵胞ホルモン
1相性:マーベロン®、ファボワール®、フリウェルLD/ULD®、ルナベルLD/ULD®、ジェミーナ®、ヤーズ®。
2相性:日本での取り扱い無し。
3相性:シンフェーズ®、トリキュラー®、ラベルフィーユ®、アンジュ®。
表5.1相性ピルと3相性ピルの分類
月経痛緩和、月経血量減少、貧血改善、子宮内膜症性嚢胞縮小、良性乳房疾患リスク低下、卵巣がんリスク低下、子宮体癌リスク低下、大腸がんリスク低下、月経前緊張症改善、排卵期出血改善、ニキビ・多毛改善などの副次的効果があります。
重大な副作用は静脈血栓症(VTE)です。血栓症とは、血管の中を流れている血液が凝固し、塊となって血管を詰まらせることを言います。この血の塊(血栓)が脳で詰まると脳梗塞、心臓で詰まると心筋梗塞になり、命に関わることもあります。VTEの発生時期は、服用開始後3か月以内が最も多く、その後減少します。
海外の報告では、VTEの発症頻度は、ピル非服用者1万人当たり1~5人、一方低用量ピル服用者は3~9人に上昇します。しかし、ピルを服用していなくても妊娠中は5~20人、分娩後12週間では40~65人と報告されており、実はピル服用中よりも妊娠出産後の方がVTEリスクは高いです。
また、ピルに含まれているエストロゲン量別にみると、エストロゲン30㎍の低用量ピルのVTEリスクを1.0とした場合、20㎍の超低用量ピルでは0.8であまり変化はありませんが、50㎍の中用量ピルでは1.9倍にリスクが高くなります。
もし、服用中に血栓に起因すると思われる症状(いずれも激しい頭痛、胸痛、腹痛、下肢痛、舌のもつれ、視野狭窄など)がみられた場合は、直ちに服用を中止し、処方元の医療機関に連絡することが大切です。
★ピルの服用に際して血栓症のリスクになる方を下記に示します。
・肥満:BMI(体重kg÷(身長m)2)が25以上で2倍、30以上で5倍にVTEリスクが上がります。BMI30以上の方は慎重投与になっています。
・年齢:15~19歳女性のVTEリスクを1.0とした場合、25~29歳で1.99倍、30~34歳で2.91倍、35~39歳で4.01倍、40~44歳で5.29倍、45~49歳で6.58倍にVTEリスクが上昇することが報告されています。40歳以上は慎重投与、50歳以上または閉経後の方は禁忌(投与できない)になっています。
・喫煙:喫煙していない女性に比べて現在喫煙している女性は2倍にVTEリスクが高 まります。さらに、年齢と喫煙本数に比例してVTEリスクが上昇します。35歳以上で1日15本以上の喫煙習慣のある方は禁忌になっていますので、禁煙・減煙を心がけてください。
・手術による影響:手術の際は麻酔をかけるなどして動けない時間があります。30分以上の手術を予定している場合は、手術前4週間、手術後2週間はピルの服用はできません。ただし、5~10分間で終わる流産手術や人工妊娠中絶手術は、直後からピルの服用ができます。
・長時間のフライト・移動による影響:海外旅行などで飛行機の座席に長時間座っているとVTEのリスクは上がります。「エコノミークラス症候群」は飛行機に限らず、列車や自動車の移動でも起こります。予防対策は、脱水(アルコールや利尿薬の服用)を避け、長時間同一姿勢でいることを回避し、座ったままでもできる足の運動や弾性ストッキングの着用が有益との報告があります。
・悪心、嘔気:6.3~29.2%
・乳房痛、乳房緊満:1.7~20.0%
・頭痛、片頭痛、頭重感:3.4~15.7%
Q1.ピルを長期間服用すると妊娠に影響する?
A1.低用量ピルの服用期間と中止後の妊娠率との間には関係はありません。
低用量ピルの服用期間が2年未満と2年以上で服用中止後の妊娠率について調べた研究があります。
服用期間2年未満で中止した場合、1か月めで妊娠した率は25%、1年後は81%であったのに対し、服用期間2年以上で中止後1か月めの妊娠率は20.7%、1年後は79.3%で、両方に有意な差がみられなかったことから、低用量ピルの服用期間と中止後の妊娠率との間には関係が無いと言えます。
一方で、中用量ピルの服用中止後は、低用量ピルに比べて妊娠が遅れることがわかっています。
経口避妊薬中止後に妊娠率が低下する原因は、未産婦であること、35歳以上であること、喫煙習慣があることの方が影響するという報告があります。
Q2.低用量ピルをやめたらいつ生理が来る?
A2.服用終了後、3か月以内にほとんどの方で自然の月経が再開します。
1相性低用量ピルで1か月以内に月経が再来した率は21.6~36.4%、3か月以内になると91.1~99.5%、3相性低用量ピルで1か月以内に月経が再来した率は18.9~49.3%、3か月以内になると94.3~99.4%と報告されています。製剤によるばらつきがありますが、ほとんどの方で中止後3か月以内に月経が再開します。
Q3.不正出血・気分変調・体重は増加する?
A3.ピル服用者の20%に不正出血がみられます。気分変調・体重増加はありません。
不正出血は服用継続とともに次第に減少することが多いので、3周期継続してみることをお勧めします。
うつ症状や月経前気分障害への影響を調べた研究では、ピルが服用者の気分に影響を与えない結果でした。体重変化に対する研究では、ピル服用群と服用しない群で体重の変化に差は無いという結果でした。
Q4.乳がんのリスクは増加する?
A4.ピルは乳がんの発生リスクを増加させます。
乳がんの発生にはエストロゲンが関係しています。現時点ではピルは乳がんの発生リスクを増加させるという見解になっています。それは、エストロゲン含有量30㎍以上の中用量ピルで乳がんの発生リスクがあるからです。しかし、エストロゲン含有量20㎍以下の低用量ピル・超低用量ピルでは乳がんの発生リスクは増加しないという研究結果が少しずつ出始めています。日本人を対象とした研究はまだ進んでいないので、今後の研究によって明らかになると思います。
なお、現在乳がんに罹患している方は禁忌であり、乳がん家系の女性に対しては慎重投与になっています。ピルを服用中は定期的な乳がん検診を受けることが大切です。
Q5.子宮頸がんのリスクは増加する?
A5.ピルの長期服用によって子宮頸がんの発生リスクが高まる可能性があります。
子宮頸がんの発生には、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が関与しています。ピルの服用により新たなHPV感染リスクが増加するのではなく、すでに感染したHPVの排除率が低下し持続感染することで、がんの発生をもたらす可能性があると言われています。適切なHPVワクチンの接種でHPV感染のリスクを減少できますし、ピル服用中は定期的に子宮頸がん検診を受けることが大切です。
Q6.性感染症のリスクは増加する?
A6.クラミジア頸管炎のリスクを高める可能性があります。
ピル自体に性感染症やHIVを予防する効果はありません。不特定多数との性行為や性風俗業のハイリスク女性においては、ピルの服用がクラミジア頸管炎のリスクを高める可能性があると示唆されています。しかし、HIVを含めたその他の性感染症リスクの増加とピル服用との間には関連は無いと報告されています。性感染症の感染リスクを回避するにはコンドームの使用が有効ですので、不特定多数のパートナーおよびコンドームを使用しない性行為の習慣がある方は、定期的な性感染症検査をすることをお勧めします。
Q7.抗生剤や鎮痛剤と併用しても大丈夫?
A7.どの抗生剤も鎮痛剤もピルと併用しても問題ありません。
ただし、リファンピシンという結核の治療薬とHIV治療薬の一部は、ピルの効果を減弱することが分かっています。このお薬は結核やHIVにならなければ処方されないので気にしなくて大丈夫です。風邪や性感染症の治療で処方される抗生剤は、ピルの効果に影響を及ぼしませんので併用可能です。
鎮痛薬のアセトアミノフェン(カロナールなど)は、ピルの効果を増強し、反対にアセトアミノフェンの効果を減弱させる可能性がありますが併用可能です。その他の非ステロイド系鎮痛薬(ロキソニン、イブプロフェン、ボルタレンなど)も、ピルの効果に影響は無く併用可能です。
Q8.併用してはいけないものは?
A8.併用してはいけないものは、ピルの避妊効果を減弱させるものです。
抗てんかん薬と抗結核薬、抗HIV薬です。
あと、注意しなければならないのは、精神安定系サプリメント「セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)」です。ダイエット系のお茶にも含まれていることがあり、ピルの効果を弱めるので注意が必要です。
Q9.服用中は定期的な検査が必要?
A9.問診、血圧測定、1年ごとの体重測定は必須です。
問診は、服薬状況・効果・副作用のチェックをお聞きします。血栓症のリスクが高い場合や、服薬中もお薬による肝障害が発生していないか、血液検査(血算、凝固、肝機能など)でチェックすることをお勧めします。他には、子宮頸がん検診、乳がん検診、性感染症検査は半年~1年の間隔でしておきましょう。
医薬品副作用被害救済制度とは、医薬品を「適正に使用した」にもかかわらず発生した副作用による健康被害者に対して救済給付を行うことで、迅速に救済を図ることを目的とした法律に基づく制度です。
「適正に使用する」とは、医薬品の添付文書の用法・用量・使用上の注意に従って使用されることです。ここでいう医薬品とは、厚生労働大臣の許可を受けた医薬品のことで、病院や診療所で処方されたものや、薬局で購入した医薬品のいずれでも救済の対象になります。避妊目的のピルは自由診療で処方されますが、自由診療であっても「適正な使用」で発生した重大な副作用であれば、救済の対象になります。
適応外使用や、個人で海外から輸入した薬剤を使って発生した副作用は、救済の対象になりません。一部のクリニックでは、日本では流通していない外国製ピルを安く輸入して処方している例が見受けられますので、その場合も救済の対象にならない可能性がありますので注意が必要です。
低用量ピルは、女性が主体的に取り組める避妊法であり、他の避妊法に比べて避妊効果が極めて高く、何年間使用しても安全な薬として開発されています。
しかし、2019年の調査では、日本のピル内服率は2.9%であり、フランス33.1%、アメリカ13.7%の諸外国に比べると依然として極めて低いのが現状です。
ピルの内服率の低さは、ピルを処方する側の我々にも責任があると思っています。
「ピル=副作用が怖い」というピルの副作用神話が今もなお払拭されていないのが現実で、低用量ピルの副作用を含めた安全性と避妊効果に対する正し情報提供と啓蒙がまだまだ不足していると思っています。
そして、望まない妊娠によって人工妊娠中絶を実施した件数は、全体的には減少傾向にありますが、20歳前後の年代の件数は減っていません。
無痛や安全を強調して人工妊娠中絶術を施行している施設もありますが、手術に伴う危険性が絶対に無いとは言えません。妊娠中絶によって身体的にも精神的にもボロボロになってしまう女性を数多くみてきて思うのは、妊娠しても出産できない時期には、確実に避妊をすることが大切だということです。男性任せの避妊ではなく、女性が自らすすんで実施することで、自分の健康を守ることにもつながります。
すべての女性が毎日笑顔で過ごせるように願っています。
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