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2023.06.15

特集

医療情報(性感染症)のエビデンスについて ChatGPTの医療情報の正確性も確認!

サムネイル2023062
最近は、スマートフォンの普及やSNSの発達、さらにはChatGPTといったAIツールによって、医療情報に接することが容易になりました。

しかし、医療情報のエビデンスの所在・検索方法は不変であり、信頼できる情報源はUpToDateのような「二次リソース」と呼ばれるものにあります。

今回は、医療情報のエビデンスについての説明です。

 

 

エビデンス・ベースド・メディシン:EBMについて

かつての医療は、医師の経験(エクスペリエンス)に基づいて行われてきました。

しかし、これは医師によって異なる医療を提供することであり、“正しい医療”とは言えませんでした

そんな中、研究が進むにつれて、様々な論文報告などを統合して判断を下すことが出来るようになり、“正しい医療”を定めようという動きが出るようになりました。

それで生まれたのが「ガイドライン」であり、「ガイドライン」を基にした、根拠(エビデンス)に基づく医療(エビデンス・ベースド・メディシン)です。

 

 

ebm3
 

その後、世界的な、それも日々アップデートされるガイドラインを作ろうという動きが出ました。

それによって作られたのが、UpToDateDynamedと呼ばれる、医療専門家向けのオンラインリソースです。

こうして、現在の医療は、確かなエビデンスに基づいて行われるようになりました。

もちろんエビデンスに加えて、医師それぞれの経験が集積されることで、さらに“正しい医療”になっていきますが、「エビデンスに基づいて正しく医療を提供できるようになった」ことが、医療において21世紀で大きく変革し、進化したことです。

 

 

 

UpToDateについて

もう少しガイドライン、エビデンスについて詳しい話をします。

医療におけるエビデンスは基本的には論文であり、これは大きく一次リソース二次リソースに区分されます。

一次リソースは個々の発信する論文などの情報で、二次リソースはそれらが集積・統合された結論を出すものです。

オンラインリソースのUpToDateDynaMed二次リソースにあたりますね。

 

リソース説明
 

UpToDateDynaMedは、世界的に標準化し、日々アップデートされていることから、多くの総合病院が契約しており、勤務医が参照できるようになっています。

現代医療ではこのように、信頼性のおけるエビデンスを基に医療が行われているのです。

ちなみにUpToDateは全て英語表記かつ有料ではありますが、一般の方でも購読が可能です。
気になった方はお読みいただくといいかと思います。

私が医学生であった頃が、ちょうどUpToDateの評価が高まりはじめた時でした。

私の出身母校(三重大学)では総合診療で高名な先生方がいらっしゃったこともあり、エビデンスについて、UpToDateの参照についての教育を受けました。

その教育が私の医師としての基礎となっており、現在でもエビデンスについてはUpToDateを参照するようにしています。

 

 

 

どんな情報を信頼するべき?

と、ここまで世界的に二次リソースが使われているのが現代医療だとお話をしましたが、二次リソースの信頼性に疑問を持つ方もいるでしょう。

一次リソースの論文が集積・比較検討されたものが二次リソースであるため、二次リソースは情報速度の面で劣ります。

最新の情報、という意味では一次リソースの方が勝るという言い方ができますね。

とはいえ、情報の正確性が保証されていない一次リソースを基に診断・治療を行っていると、そもそも「エビデンス」に基づいているとは言えなくなってしまいます。

最もよくないことは、論文など根拠すらなく医療を行うことですが、次に良くないのは、妥当ではない一次リソースの論文に基づいて医療を行うことです。

 

信頼度ランキング
 

私が良く教えられたのは、エビデンスに基づかない医師は三流、一次リソースの論文に基づいている医師は二流、UpToDateに基づいている医師は一流、UpToDateに加えて一次リソースの論文を妥当性を評価しながら使用している医師は超一流ということでした。

実際に、医療の質が高いとされる名古屋大学医学部附属病院では、UpToDateの参照が習慣化されており、記事にもなっています(1)。

一方で、近年は一部の方が不正確な情報を広めることも散見されます。

出典元が定かでない情報や、一次リソースを根拠とした情報に対しては慎重になって損はないでしょう。

予防会で私が執筆するコラムでは、正しく情報を発出するために、UpToDateをエビデンスとして記載していますのでご安心ください。

 

 

ChatGPTに医療情報を聞いてみました

ここ最近、ChatGPTなどAIが進化し、医師に取って代わるのではないかと言われています。

実際に、性感染症について、UpToDateなどを参照しないと正しい情報を得られない議論のあることを質問してみました。

gptに質問1
クラミジア性感染症の治療薬に関しては、最新のメタアナリシス解析から、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)より第一選択薬がアジスロマイシン(ジスロマック)からドキシサイクリン(ビブラマイシン)に代わりました。

ヨーロッパのエビデンス、UpToDateも同様に変更となりました(2)。しかし、ChatGPTではアジスロマイシンのままでした。
(gpt4においても、「最新の情報ではない可能性がある」という前置きのもと同様の回答でした)

 

gptに質問2
これも議論のあるところで、マイコプラズマと不妊に関しては、関係あるという論文報告もあるのですが、ないという報告もあります(常在菌であるため、不妊症例で他の菌と一緒に見られることが多くなってしまう)。

UpToDateなどのメタアナリシス解析では、現在のところ、「関係がある」とは結論づけられず、症状がなく保菌だけであれば治療の必要はないとされています(3)。

ChatGPTの方でも濁してはありますが、感染していれば治療という記載になってしまっています。

 

最後に、UpToDateなどの正確なエビデンスである二次リソースを参照してくれるかを聞きましたが、不可能でした。

gptに質問3
特性上、ChatGPTは正確なエビデンスを提供できない仕様となっていることが分かりました。

そのため、現段階では、正しい医療情報を提供できているとは言えず、医師の代わりにはなるとまでは言えません。

 

まとめると、あくまで、現時点における医療の正しいエビデンスはUpToDateなど二次リソースにあり、ChatGPTに尋ねたりするより、UpToDateを参照することの方が正しく、早いということです。

 

まとめ

・医療には様々な情報があるが、二次リソース、その中でもUpToDateなど世界標準で日々アップデートされるエビデンスを根拠にしているものを信頼する必要がある

・ChatGPTなどAIも、現時点では正確な二次リソースを参照できず、正しいとは言えない

 

  • https://www.wolterskluwer.com/ja-jp/expert-insights/nagoya-university-hospital
  • UpToDate:Treatment of Chlamydia trachomatis infection
  • UpToDate:Mycoplasma genitalium infection in males and females

記事の執筆


著者情報 新宿サテライトクリニック 院長 北岡 一樹(きたおか かずき)

予防会 新宿サテライトクリニック 院長
早稲田大学招聘研究員

北岡 一樹(きたおか かずき)

三重大学医学部卒業後、同大学医学部附属病院で研修を行った後、内科勤務しながら、名古屋大学大学院細菌学博士課程へ入学。薬剤耐性菌研究に携わり、博士(医学)取得。
その後、早稲田大学で招聘研究員として研究を開始。同時に、医療法人社団予防会新宿サテライトクリニックで性感染症診療も開始し、現在、院長を務めている。
性感染症について診療だけでなく研究も行っており、ファージを用いた性感染症予防の実現(性感染症予防のゲームチェンジャー)に取り組んでいる。

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