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2024.08.15

特集

ピルの正しい用法をエビデンスに基づいて解説!【UpToDate】

性感染症専門クリニックである予防会の医師が監修・執筆したコラムです。
 

ピルは避妊目的だけでなく、旅行や試験・イベントなどに備えて生理周期をコントロールするためにも使われており、使用者も多いことから、様々な情報が錯綜しています。

ここ最近、間違った情報からピルについて質問されることが増えました。
改めて、世界的なエビデンスUpToDateに記載されていることを中心に、まとめたいと思います。

*この記事は、世界で最も信頼性のあるメタアナリシス(様々な研究・文献を統合して判断すること)エビデンスの1つであるUpToDate(https://www.uptodate.com)をエビデンスとして記載しております。

↓UpToDateについてはこちらをチェック!↓
https://yoboukai.co.jp/article/2467

ピルは性感染症の予防にはなりません!
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ピルの効果・種類について

さて、現代においては多くの女性が利用しているピルですが、なぜ避妊ができるかご存知でしょうか。
ピルの作用としては様々なメカニズムがありますが、最も重要なのは、含まれるエストロゲンというホルモンです。

エストロゲンが、FSH(=卵胞刺激ホルモン)というホルモンを抑制し、卵子の放出が抑制されます。

加えて、ピルの成分に一緒に入っているプロゲステロンというホルモンによる子宮内膜の萎縮や、子宮頸管粘液の増量に伴う精子の侵入抑制等の効果も相乗され、避妊効果が発揮されます。


ピルの種類は、このエストロゲンの量を中心にして分類されます。

かつては、エストロゲンを50μg以上含む「中用量ピル」が主流でした。
現在も「プラノバール」という商品が販売されています。

しかし、一方で中用量ピルは、吐き気や静脈血栓塞栓症といった副作用が強い点が問題でした。

そこで、エストロゲンの量を様々に変えて、臨床試験が行われました。
それにより、50μg以下、最低10μgまでのエストロゲン含有ピルにおいて避妊効果は同様であることが分かりました(1)。

こうして、20~35μgのエストロゲン含有量の「低用量ピル」が誕生しました。
エストロゲンの含有量と含有量の変化(生理的なホルモン変化に合わせた三相性と一定な一相性)に応じて、様々な種類があります。


尚、予防会系列クリニックでは、下記のピルを取り扱っています。

・フリウェル    [35μg / 一相性]
・シンフェーズ [35μg / 三相性]
・トリキュラー  [30~40μg・三相性]
(※ジェネリック:ラベルフィーユ)
・マーベロン    [30μg / 一相性]
(※ジェネリック:ファボワール)

他に、有名な低用量ピルではヤーズ[20μg / 三相性]が存在します。
(※ジェネリック:ドロエチ)

一般的に、エストロゲン含有量が減るにつれ不正出血(ピルで出血が来ない時期に、来てしまうこと)や無月経(生理が来るべき期間(4週目)に生理が来ない)のリスクが高くなります(2)。

逆に、エストロゲン含有量が増加するにつれて吐き気のリスクが高まります

また、一相性だとホルモン変化が無いため、PMS=生理前症候群の改善を図れることもあります。

これらを考慮して選択することとなりますが、上記はあくまで理論的な部分であり、ピルは使用個人差が広く、どのピルが合うかどうかは、実際に使ってみないと分からないところがあります。

また、使用開始は、いずれにおいても吐き気・不正出血・乳房の張りなどの副作用が見られることが多いです。
通常2~3か月で収まることが多いため、2~3シートは試してもらい、それでも改善が無い場合は、ピルの種類を変更するというように進めてもらえればと思います。

 

ピルの禁忌

ピルは静脈血栓塞栓症のリスクを上昇させます。
静脈血栓塞栓症とは、静脈血管内に血の塊(血栓)が出来、それが肺や脳へ運ばれてしまうことで、肺障害や脳障害を来し、死に至ることもある病気です。

その懸念を含めて様々な理由から、以下の場合は、ピルの服用は禁忌とされています(3)。

・年齢35歳以上で1日15本以上の喫煙者

・動脈性心疾患の複数の危険因子(高齢、喫煙、糖尿病、高血圧症など)

・高血圧症(収縮期1 6 0 mmHg以上、拡張期100 mmHg以上)

・静脈血栓塞栓症

・虚血性心疾患・ 脳卒中の既往

・合併症のある心臓弁膜症(肺高血圧症、心房細動を伴う、亜急性細菌性心内膜炎の既往歴など)

・乳がん

・重症(非代償性)肝硬変

・肝細胞腺腫または悪性肝細胞腫

・前兆のある片頭痛

・20年以上経過した糖尿病、または腎症、網膜症、神経障害を有する糖尿病

 

ピルの飲み方・飲み忘れた場合の対応


ピル自体はいつでも開始可能です(4)。
ただし、生理開始から5日以内ではなかった場合は、最初の1週間は避妊効果がありません。
毎日同じような時間に服用してもらい、4週目の偽薬(ホルモンが入っていない期間)期間に生理が来ます。

飲み忘れに関しては、1錠であれば、思い出した時にすぐ飲めば問題ありません。

飲み忘れたのが2錠(2日)以上であれば対応が変わります。
重要なのは、「偽薬期間後の1週間(つまり、最初の週)を2錠以上の飲み忘れなどで完遂しなかった場合、避妊効果が低下する」ということです。

従って、飲み忘れたの対応をまとめると、以下のとおりとなります(5)。

・最初の1週間で2錠以上の飲み忘れがあった場合
避妊なし性行為があった場合、アフターピルが必要となります。

・2週目で2錠以上の飲み忘れがあった場合
偽薬期間後の1週間は飲み切っているため、避妊効果としては発現しています。
従ってアフターピルは不要です。そのまま再開してもらって問題ありません。

・3週目で2錠以上の飲み忘れがあった場合
偽薬期間後の1週間は飲み切っているため、避妊効果としては発現しています。
従ってアフターピルは不要です。そのまま再開してもらって問題ありません。
一方、飲み忘れた期間は偽薬期間に該当するため、そのまま4週目に入ってしまうと、偽薬期間後の1週間を飲み切っていないこととなり、避妊効果が低下します。
そのため、偽薬期間(4週目)をスキップして、新しいシートに入ってください

 

よくある質問

 

Q.太りますか?

A.メタアナリシス解析(様々な報告を統合し判定すること)により、有意な体重変化をもたらさないとされています(6)。

Q.使っていけない薬はありますか?

A.肝ミクロソーム酵素活性と呼ばれるものを上昇させてしまう薬剤と併用すると、ピルによる避妊効果が低下します(7)。その薬剤としては、まず抗てんかん薬のフェニトイン等があります。

他に、抗生物質の中でリファンピシンがあります。一方、リファンピシン以外の抗生物質は問題ありません。よく、抗生物質は併用してはいけないという情報がありますが、リファンピシン以外は証明されていません(8)。

また、抗レトロウイルス薬(HIVの治療薬)やセイヨウオトギリソウ(ハーブや健康食品として売られている)も避妊効果を低下させてしまいます。

Q.生理を来ないように(4週目を飲まずに)連続使用してもよいでしょうか?

A.現在、月経抑制は安全であり、偽薬期間による消退出血は医学的に必要ないことが分かっています。
1年間偽薬期間を設けず連続使用する方法も認められています。

Q.偽薬期間も避妊効果はありますか?

A.あくまで、避妊効果が低下するのは、偽薬期間後の1週間で2日以上の飲み忘れがある時となります。
偽薬期間中も避妊効果は継続しています。

 

UpToDate: Combined estrogen-progestin oral contraceptives: Patient selection, counseling, and use

UpToDate: Combined estrogen-progestin contraception: Side effects and health concernsを基にしています

参考文献▼(クリックで展開します)

1)

1) Archer DF, Nakajima ST, Sawyer AT, et al. Norethindrone acetate 1.0 milligram and ethinyl estradiol 10 micrograms as an ultra low-dose oral contraceptive. Obstet Gynecol 2013; 122:601.

2) Gallo MF, Nanda K, Grimes DA, et al. 20 µg versus >20 µg estrogen combined oral contraceptives for contraception. Cochrane Database Syst Rev 2013; :CD003989.

3) Department of Reproductive Health, World Health Organization. Medical eligibility criter ia for contraceptive use, 5th ed, World Health Organization, Geneva 2015.

4) Lopez LM, Newmann SJ, Grimes DA, et al. Immediate start of hormonal contraceptives for contraception. Cochrane Database Syst Rev 2012; 12:CD006260.

5) Curtis KM, Jatlaoui TC, Tepper NK, et al. U.S. Selected Practice Recommendations for Contraceptive Use, 2016. MMWR Recomm Rep 2016; 65:1.

6) Gallo MF, Lopez LM, Grimes DA, et al. Combination contraceptives: effects on weight. Cochrane Database Syst Rev 2014; :CD003987.

7) Zhanel GG, Siemens S, Slayter K, Mandell L. Antibiotic and oral contraceptive drug interactions: Is there a need for concern? Can J Infect Dis 1999; 10:429.

8) Simmons KB, Haddad LB, Nanda K, Curtis KM. Drug interactions between non-rifamycin antibiotics and hormonal contraception: a systematic review. Am J Obstet Gynecol 2018; 218:88.

記事の執筆

著者情報 新宿サテライトクリニック 院長 北岡 一樹(きたおか かずき)

予防会 新宿サテライトクリニック 院長
株式会社KMPhage代表取締役

早稲田大学研究員(MD/PhD)

北岡 一樹(きたおか かずき)

三重大学医学部卒。初期研修修了後、内科勤務しつつ名古屋大学大学院医学系研究科細菌学博士課程修了。その後、薬剤耐性菌の研究のため、早稲田大学で研究開始。同時に医療法人社団予防会新宿サテライトクリニックで診療開始し、現在は院長を務めながら新たな性感染症予防薬創出のため「バクテリオファージ」の研究を進めている。本研究では東京都主催のコンテストで優秀賞を獲得、社会実装に向けバイオベンチャー「株式会社KMPhage」を起業。国内では数少ないカンジダ・細菌性膣症の予防の研究も行っており、臨床においても研究知見も含め「性器感染症予防」を専門として、世界的エビデンスUpToDateに基づいたデリケートゾーン専門外来も行っている。
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