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2020.08.14

マイコプラズマ

マイコプラズマ・ウレアプラズマって常在菌ですか?

~マイコプラズマ・ウレアプラズマ性感染症Q&A~

 

予防会では、2020年8月~9月、マイコプラズマ・ウレアプラズマ同定検査を通常の半額近い低料金で提供させていただいています。

おりものがいつもと違う、腟の中に痒みがある、臭いが気になる、排尿時の違和感などの症状のある方は、是非この機会に、マイコプラズマ・ウレアプラズマ同定検査で調べてみてはいかがでしょうか?

 

2020年4月に「ウレアプラズマ・マイコプラズマ感染症 ~非クラミジア性、非淋菌性の尿道炎~」のコラムをUPして以降、「コラムを見て来ました!」と来院される患者さんが非常に増え、大きな反響があったと感じています。

患者さんから詳しくお話を聞くと、「この菌は治りにくいから一生付き合っていくしかない」、「この菌は治療対象ではない」と他の病院で言われてしまい、治療してくれる病院を探しまくって、やっとの思いで来院されている方がほとんどです。

今回のコラムは、厄介者扱いにされがちな、マイコプラズマ・ウレアプラズマ感染症について、復習をしつつ、患者さんからのよくある疑問・質問にお答えしていきます。

 

マイコプラズマ・ウレアプラズマとは?

マイコプラズマ・ウレアプラズマは、自己増殖できる最も小さい微生物(細菌)です。その大きさは100ナノメートルで、普通の顕微鏡ではなく、電子顕微鏡で分かるレベルの大きさです。ちなみに、現在世界的に大流行している新型コロナウィルス感染症の原因ウィルスである「SARS-CoV-2」と同じ大きさですので、ウィルスと同じくらい小さいのに、栄養源があれば単独で増殖することができるところが、単独では増殖できないウィルスと異なる点です。

 

マイコプラズマ・ウレアプラズマの種類

現在までに少なくとも7種類のマイコプラズマと2種類のウレアプラズマが発見されています。そのうち、泌尿生殖器に病原性のあるマイコプラズマは、Mycoplasma genitalium(以下M. genitalium)とMycoplasma hominis(以下M. hominis)です。ウレアプラズマは、Ureaplasma urealyticum(以下U. urealyticum)とUreaplasma parvum(以下U. parvum)です。
表1に、この4種類のマイコプラズマ・ウレアプラズマの有病率と症状についてまとめました。

 

表1.泌尿生殖器に感染するマイコプラズマ、ウレアプラズマの種類とその症状

【画像】マイコ1

表1の有病率は、2015~2016年の1年間のクロアチアの調査報告ですが、日本での報告は、2002年、東京の性風俗従事の女性を対象にした調査があり、M. genitalium 5.3%、M. hominis 21.3%、U. urealyticum 28%、U. parvum 46.7%が検出されたという報告があります。

 

マイコプラズマ・ウレアプラズマの病原性について

マイコプラズマは、過酸化水素を産生することでヒトの細胞を傷害して侵入し、局所の炎症反応を誘導して組織を傷害します。
一方、ウレアプラズマは抗原性をもち、宿主に抗体反応を誘発したり、IgAプロテアーゼやウレアーゼという毒性因子を産生したりすることによって、種々のサイトカインを誘導し炎症反応を惹起させることが分かっています。かゆみや違和感などの症状は、こういった炎症反応や毒素が原因となり、生じるものと考えられます。
表2に女性の疾患とマイコプラズマ・ウレアプラズマの関連について、表3に男性の疾患とマイコプラズマ・ウレアプラズマの関連についてまとめました。
表2.女性の疾患とマイコプラズマ・ウレアプラズマの関連

【画像】マイコ2

表3.男性の疾患とマイコプラズマ・ウレアプラズマの関連

【画像】マイコ3

次に、それぞれの菌ごとの病原性についてみていきましょう。

M. genitalium

4種類のマイコプラズマのうち、病原性が最も明らかになっているのがM. genitaliumです。
女性では、クラミジアや淋菌と同様に、子宮頚管炎、骨盤腹膜炎の原因菌として考えられています。症状はクラミジアと同じく、無症状のことが多いので、無自覚に子宮頸管炎から菌が上行して、子宮内、卵管、骨盤へ持続する慢性的な炎症が波及することによって不妊症の原因になります。また、妊娠中の感染は、早産や自然流産のリスクが2倍に増えると言われています。
男性では、クラミジア感染のときよりも症状が出やすく、7割の男性に泌尿生殖器系に何らかの症状が現れると言われています。非クラミジア性非淋菌性尿道炎の起因菌として最も多く、菌による炎症が上行性に波及すると、前立腺炎、精巣上体炎になります。男性不妊症との関係はあまりないと言われていますが、その理由は、症状が現れやすいので、慢性的な炎症になる前に治療されることが多いためと考えられます。

 

M. hominis

1937年にバルトリン腺炎の患者さんから検出され、泌尿生殖器に感染するマイコプラズマ・ウレアプラズマの中で、最初に報告された菌です。
女性では、骨盤腹膜炎、早産、卵管炎の患者さんから検出された症例が報告されています。単独では病原性を示しにくく、他の雑菌類と協調して病原性を発揮すると考えられています。バルトリン腺炎、細菌性腟症の原因菌であり、細菌性腟症から骨盤腹膜炎を発症すれば、不妊症に発展すると考えられています。
男性では、慢性前立腺炎の起因菌として考えられており、男性不妊症の患者さんで最も多く検出されます。
新生児の結膜炎、呼吸器疾患、髄膜炎の起因菌でもあります。

 

U. urealyticum

女性では、細菌性腟症の患者さんで検出されることが多く、大量に存在すると子宮頚管炎になります。さらに、他の雑菌と協調して骨盤腹膜炎や卵管炎を起こすこともあり、不妊症の原因にもなります。
男性では、急性非クラミジア性非淋菌性尿道炎の原因菌では、M. genitaliumに次いで多く、尿道炎が進行すると、前立腺炎、急性精巣上体炎に進展します。U. urealyticumが検出された男性の精子所見では、正常な精子細胞の割合や精液の量が少なく、精子細胞の運動率も低いという結果があり、男性不妊症との関連が示唆されています。

 

U. parvum

女性では、細菌性腟症の患者さんでよく検出され、U. urealyticumと同様に大量に存在すると子宮頚管炎になります。他の雑菌と協調して骨盤腹膜炎や卵管炎を起こし不妊症の原因にもなります。U. parvumは、流産や早産の原因となる絨毛膜羊膜炎と診断された患者さんの胎盤から最も多く検出されており、流産や早産のリスクファクターと考えられています。
男性では、U. parvumについての病原性は、まだ不明な点も多く、尿道炎との関係については関係があるとする論文と関係が無いとする論文があり、結論が出ていません。ただ、現時点では男性不妊との関係は無いということは明らかになっています。
U. parvumU. urealyticumM. hominisと同じく、妊娠中や出産時に母体から免疫の弱い早産の赤ちゃんに感染すると、胎児炎症反応症候群を引き起こし、新生児の慢性肺疾患や髄膜炎、脳室周囲白質軟化症などの合併症をもたらし、神経学的後遺症や、時には致命的な結果をもたらします。

 

マイコプラズマ・ウレアプラズマFAQ

診察にいらっしゃる患者さんから実際によく尋ねられる質問と回答集です。

 

Q1. マイコプラズマ・ウレアプラズマは常在菌ですか?

A1.最近の研究では、常在菌ではなく低病原性細菌として認識されています。

これは最も多い質問です。「マイコプラズマ・ウレアプラズマは常在菌だから治療しないで様子を見ましょう」と他の病院で言われているからだと思います。たしかに、表1に示したように、ウレアプラズマを例にすると、実に女性の4割近くに検出され、このうちのすべての人に症状があらわれるわけではないことが、常在菌として考えられている理由なのかもしれません。
マイコプラズマ・ウレアプラズマが常在菌なのか、病原菌なのかについて、専門家のあいだで長いこと議論されてきました。常在菌の定義は、「多くの人に共通してみられ、病原性を示さない菌」です。しかし、「3.マイコプラズマ・ウレアプラズマの病原性について」で述べたように、近年、マイコプラズマ・ウレアプラズマの4種類それぞれの病原性が明らかになってきています。保菌していても無症状な方というのは、腟内の細菌叢(フローラ)の絶妙なバランスで、菌の繁殖が抑えられている方と考えられます。しかし、普段は大人しくしていても、何らかの原因で、このバランスが崩れると、菌が繁殖し、病原性としての悪い性質をあらわすのではないかと考えます。したがって、症状があればもちろん治療が必要ですが、無症状保菌の状態でも、将来的に病原性を発揮するような菌であれば、私は、除菌対象として積極的に治療したほうが良いと考えています。

 

Q2. どんな人が検査対象ですか?

A2.腟や尿道、腟入口部付近の痒みや違和感があるとき、クラミジア・淋菌などの他の性感染症検査が陰性だったのに症状が軽快しないとき、ひと通り治療をした後も症状が残っているときなどは、性感染症のマイコプラズマ・ウレアプラズマ同定検査をお勧めします。

<検査をお勧めする方>
・尿道炎の症状(排尿痛、排尿障害、尿道のむず痒さ)がある方。
・腟炎・子宮頚管炎の症状(おりものの色、出血、におい、量が気になる)がある方。
・骨盤腹膜炎(下腹部の違和感、痛み)の症状のある方、または診断された方。
・性感染症のマイコプラズマ・ウレアプラズマの検査で陽性になった方のパートナー。
・尿道炎・膀胱炎の治療をしたにもかかわらず持続的に症状が残っている方。
・セックスパートナーが複数いる方。

 

Q3. マイコプラズマの検査は保険適用ですか?

A3.マイコプラズマ・ウレアプラズマの4種類を調べるPCR検査は、保険適用外です。

マイコプラズマ・ウレアプラズマを検出する検査には、PCR法を用いた検査方法のほかに、培養法による検査があります。
PCR法を用いた検査は、菌の遺伝子を検出して、マイコプラズマ・ウレアプラズマの4種類を同定する検査です。PCR法の利点は、培養法に比べて結果判明までの時間が早いこと、ターゲットがごく少量でも検出できることです。欠点は、保険適用外検査のため料金が高いことです。
一方、培養法は、症状があれば保険適用になる利点がありますが、一般的に培養法は菌を専用の培地で繁殖させるため、結果判明までに時間がかかるのが最大の欠点です。また、マイコプラズマ・ウレアプラズマは培養することが難しく、菌が少量のときや、ちょっとした環境変化の影響を受けやすく、正確に培養できない可能性があり、正しい検査結果が得られないことが考えられます。また、培養法による4種類の菌の判別にかかる操作が煩雑で、菌の同定には熟練を要すると言われています。実際に、前医の検査法が培養法で、当院のPCR法で改めて検査をし直してみると、異なる結果が判明する場合があります。菌の種類を正しく判別できなければ、治療に支障をきたしますので、PCR法によって菌を正しく判別することがとても重要になります。前医で実施した検査法が培養法の場合には、改めてPCR法で検査をし直すことも必要であると考えます。

 

Q4.治療方法はありますか?

A4.的確に抗生剤を選択して治療します。

PCR法によるマイコプラズマ・ウレアプラズマ同定検査によって、4種類の菌を正しく判別したうえで、効果のある抗生剤を選択し処方します。近年、マイコプラズマ・ウレアプラズマの遺伝子が突然変異して、薬剤耐性が獲得されてしまうことが問題になっています。今まで効果があると思われていたお薬が効きにくくなることで、治療が失敗していることも考えられますので、治療歴のある方は、前医での治療薬の情報をお聞きしたうえで、抗生剤を選択します。

 

Q5.治療しなくても自然に治りますか?

A5.自然に治ることは期待できません。

この質問は、症状の無い方から多くいただきます。症状が無く、困っていないのだから治療しなくても良いではないか?という意見です。そして、そのまま自然にいなくなってしまう可能性があるのなら、もっと治療しなくてもいいよね?というと、そうではありません。はっきり言います、マイコプラズマ・ウレアプラズマの検査をして、陽性と判明しているのであれば、症状の有無に関わらず、早めに治療をするべきです。その理由は、今後、妊娠しようと思ったときに不妊症の原因になったり、妊娠したときの流産や早産に影響したりすることが明らかになっているからです。大切なパートナーに感染させてしまう可能性もありますので、男性も女性同様に症状が無くても治療が必要です。
また、一般的に、菌の薬剤耐性は、風邪の時に処方された抗生剤の中途半端な服用だったり、症状が治まったために途中で服用を自己中断したりすることが一因で、獲得されると考えられています。
つまり、マイコプラズマ・ウレアプラズマを長く保菌した状態でいると、たまたま別の目的で服用した抗生剤によって薬剤耐性を獲得させてしまっているかもしれないのです。このことは、症状が無ければ、なかなかピンときませんが、保菌していても何もメリットはないので、早めに治療することが大事です。

 

Q6.将来的に何か困ったことになりますか?

A6.男女ともに不妊症との関連が示唆されています。女性では、絨毛膜羊膜炎による流産や早産、早期破水の原因菌として考えられています。

不妊症の原因のうち、40%は性感染症が原因であると言われています。クラミジアや淋菌感染と同様に、マイコプラズマ・ウレアプラズマも、はじめは腟や子宮頸部に感染しますが、その後上行性に炎症が波及すると、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎と進行していきます。マイコプラズマ・ウレアプラズマの感染では、症状が軽度か無症状であることが多いので、慢性的な炎症が無自覚に進行することで、卵管の閉塞をきたしやすくなります。男性不妊症の患者さんで最も多く検出されるのは、M. hominisです。次に多いのがU. urealyticumです。M. hominisと2種類のUreaplasmaは、精子細胞に感染して生存できることがわかっています。U. urealyticumが検出された男性の精子所見では、正常な精子細胞の割合や精液の量が少なく、精子細胞の運動率も低いという結果が報告されています。
マイコプラズマ・ウレアプラズマは、出生時または子宮内において、母体から赤ちゃんに垂直感染します。保菌している母体から赤ちゃんへの垂直感染率は18~55%という報告があります。絨毛膜羊膜炎の原因菌で頻繁に検出され、妊娠早期での破水、流産や早産と関連しています。また、胎児炎症反応症候群の原因菌とも考えられ、早産の赤ちゃんの脳や肺に異常を起こすことがわかってきており、周産期学的な分野において、最重要視されている菌です。

 

Q7.治療してもなかなか治らない場合がありますか?

A7.①薬剤耐性菌の可能性、②パートナーとのピンポン感染の可能性、③再検査の時期が早すぎる可能性があります。

マイコプラズマ・ウレアプラズマの検査結果が陽性で、抗生剤の内服をして、治癒判定をしたところ、依然として同じ菌が陽性のままであることがよくあります。
この場合、大きく3つの理由が考えられます。
① 薬剤耐性菌の可能性
② パートナーとのピンポン感染の可能性
③ 再検査の時期が早すぎる可能性
です。

 

①については、マイコプラズマ・ウレアプラズマの4種類は、それぞれ効果のある薬剤が異なるので、的確な抗生剤の選択をしなければなりません。しかし、菌の遺伝子に突然変異がおこると、効くと思われていたお薬が効きづらくなります。また、同じ系統のお薬でも、種別によって効果に違いがあると感じるときもあり、推奨薬が定まらないのも、マイコプラズマ・ウレアプラズマの治療を難しくさせている原因と思われます。

 

②は、マイコプラズマ・ウレアプラズマに限らず、性感染症がなかなか治らない原因として常に考えておく必要があります。特にマイコプラズマ・ウレアプラズマは、自覚症状が軽度であることが多いため、パートナーの自発的な受診行動が期待できない可能性があります。性感染症の治療は、パートナーとの同時治療が基本ですので、話し合って一緒に治療しましょう。

 

③は、再検査の時期は、抗生剤の服用終了後、少なくとも1週間以上あけて治癒判定することをお勧めします。PCR法では、菌の遺伝子の一部がちょっとでも存在すると陽性と判定されますので、検査時期が早すぎると、死んだ菌の遺伝子であっても拾う可能性があります。治療が終了して早く治癒を証明したい気持ちは、とてもよくわかりますが、このような理由から、焦って再検査の時期を早めないように気をつけてください。

 

Q8.咽頭に感染することはありますか?

A8.性器と口の直接的な接触行為で感染する可能性があります。

マイコプラズマ・ウレアプラズマの感染経路は、オーラルセックスによって男性から女性、女性から男性に感染することが考えられます。
2009年に日本のセックスワーカの女性を対象にした保菌率の調査では、性器の保菌率M. genitalium 1.7%、M. hominis 19.6%、U. parvum 40.4%、U. urealyticum 10.2%に対して、咽頭の保菌率はM. genitalium 0%、M. hominis 1.2%、U. parvum 0.2%、U. urealyticum 0.7%と報告されています。咽頭の保菌率は、性器の保菌率に比べて低いですが、マイコプラズマ・ウレアプラズマの咽頭感染も有り得るという結果でした。
マイコプラズマ・ウレアプラズマの咽頭感染については、感染様式や症状、男性の保菌率など、不明な点も多くあり、今後の調査研究が待たれるところです。

 

(おわりに)
日本では、まだ馴染みの薄い性感染症であるマイコプラズマ・ウレアプラズマですが、症状が軽度のために、検査を受けずに自分が保菌していることさえ知らない患者さんも数多く存在しており、意外と蔓延している可能性があると懸念しています。マイコプラズマ・ウレアプラズマ性感染症の蔓延を阻止するためにも、できるだけ多くの方に性感染症のマイコプラズマ・ウレアプラズマ同定検査を受けていただき、適切な治療へ結びつけていくことが重要であると考えます。

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