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2019.12.16

HPV

「ありふれたウィルス:ヒトパピローマウィルス(HPV)について知っておこう」

“ありふれたウィルス”って、いったいどういう意味?と、思われた方も多いと思います。
私も、このHPVのコラムを書くにあたっていろいろな書類をかき集めて勉強するのですが、あらゆる教科書に、“HPVは、ありふれたウィルス”と書かれていて、なんとなくわかりづらいと思いました。
この「ありふれた」という言葉を調べてみると、「どこにでもあること、普通であること」という意味だったので、「HPVは、年がら年中どこにでもあるウィルス」だということです。
どこにでもあるので、HPVに接する機会も非常に高く、私たちの生活にとても馴染み深いウィルスだということです。

ところで、ヒトに癌を発生させる可能性のあるウィルスをご存知でしょうか?
・肝細胞がん:B型肝炎ウィルス(HBV)、C型肝炎ウィルス(HCV)
・リンパ性白血病:EBウィルス(EBV)、ヒトリンパ好性ウィルス1型(HTLV-1)
・子宮頸がん:ヒトパピローマウィルス(HPV)です。

今回は、子宮頸がんの発生にも関係のあるヒトパピローマウィルス(HPV)についてお話しします。

ヒトパピローマウイルス(HPV)とは?

HPVはHuman Papilloma Virusの略称で、日本語ではヒト乳頭腫ウィルスと言います。感染すると乳頭のように盛り上がった腫瘍(いぼ)を形成することから、この名前がついています。
HPVには100種類以上の型(タイプ)があると言われています。その型によっては、悪性(がん)化するものと、良性の腫瘍になるものがあることがわかってきました。
たとえば、悪性腫瘍の発生と関係があるHPVは、ハイリスクHPVと呼び、主にHPV16、18、その他にも、HPV31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68が関係していると考えられています。
一方、尖圭コンジローマなどの良性腫瘍を発生させるHPVは、ローリスクHPVと呼び、HPV2、3、4、6、10、11が関係していると考えられています。
また、女性であれば80%以上、男性は90%以上が生涯で一度は何らかのHPVに感染すると言われています。また、ハイリスクHPVには50%の女性が感染すると言われています。
しかし、ハイリスクHPVに感染したとしても、90%の女性は、自己の免疫力で数年以内にHPVウィルスを撃退(自然排除)すると言われています。
しかし、排除されずに長期間感染したままのごく一部の方が、子宮頸がんや尖圭コンジローマなどを生じることがわかってきました。

HPV①

HPVの型と疾患の関連(病気が見えるVol.9 P90の図より引用)

 

HPV感染による主な病気と症状は?

HPVは主に性行為でヒトからヒトに感染します。
HPVにはいろいろな型があると述べましたが、性感染症領域ではハイリスクHPVは子宮頸がんや陰茎がんに、ローリスクHPVは尖圭コンジローマの発生と関係があります。
HPVに感染しただけでは全く症状は無く、感染しても90%の人は免疫の力で自然排出されますが、10%の人ではHPV感染が長期間持続します。ハイリスクHPVが長期間持続感染すると、子宮頸部の細胞に異形成(顕微鏡で細胞を観察したときに、「正常な細胞とは異なる形の細胞」がみられること)とよばれる前がん病変を経て、数年~数十年かけて子宮頸がんに進展すると考えられています。しかし、子宮頸がんまで進展する割合もごくわずかで、その間に自然にウィルスが排出されることも多いと言われています。

HPV② 進行図解

HPVの感染から子宮頸がんへ進行する過程。

(日本産科婦人科学会ホームページより引用:http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4
・子宮頸がん
子宮頸がんの前がん病変(異形成)や早期の子宮頸がんでは、通常、症状がありません。そのため、症状が無くても子宮頸がん検診を定期的に受け、早期発見につなげることが大切です。子宮頸がんが進行すると、不正出血(月経以外の出血や性交時の出血)、おりものの増加、月経時の出血増加、月経期間が長引く、などの症状がみられます。そのような症状があるときは進行している場合がありますので、気になる症状があるときは早めに受診をしましょう。

HPV③ グラフ

子宮頸がんは患者数・死亡者数ともに増加傾向にある。
特に20歳~40歳の若い世代での増加が著しい。
(日本産科婦人科学会ホームページより引用:http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4

 

・尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは良性の腫瘍です。外陰部、会陰、肛門周囲などに先のとがった乳頭上、鶏冠状(にわとりのとさか)の疣贅(いぼ)を生じます。気になる性行為から、3週間~8か月(平均3か月)で発現し、ほぼ無症状で見た目で気づくことが多いです。男性は自分で見えるところにできますが、女性の場合は、腟内や子宮頸部などの見えにくい場所にもできることがあります。
(尖圭コンジローマの詳細については、次回のコラムで予定します。)

 

診断方法は?

子宮頸がんや前がん病変は、子宮頸がん検診で診断します。
異常な細胞は子宮頸部の移行帯と呼ばれる部分に出現しやすいため、その部分を中心に医療用のブラシで細胞を採取し、顕微鏡で確認します。結果の報告までに通常2週間くらいかかります。
最近は、子宮頸がん検査の自己採取キットがネット通販やドラッグストアで購入できるようになりました。医療機関を受診しなくても手っ取り早く検査できるメリットがありますが、医師が目視で子宮頸部の移行帯の細胞をしっかり採取するのとは違い、精度は低くなります。

HPV④⑤

厚生労働省は、20歳以上の女性は2年に1回の頻度で子宮頸がん検診を受診するように勧めています。お住いの自治体から子宮頸がん検診の受診券が送られてきますので、症状が無くても是非受診するようにしてください。

 

治療方法は?

・子宮頸がん
がんの進行度分類により手術方法が異なります。
早期であれば、子宮頸部を円錐状に切除(円錐切除術)し子宮を温存できますが、進行すると子宮を全部摘出(子宮全的術)することになります。さらに進行していると手術が不可能となり、抗がん剤や放射線での治療になります。

 

HPV感染の予防方法は?

コンドームの使用も一時的には有効ですが、一生涯HPVに感染しないようにすることは、ほぼ不可能と思われます。しかしながら、先の項でも述べたとおり、HPVは感染しても数年以内に自己免疫力によって自然排除されることがほとんどなので、一番効果的な予防方法は免疫力を上げることです。
免疫力を上げる方法のひとつが、HPVワクチンを接種することです。
ワクチンは2種類あります。HPV16と18型をターゲットにしているサーバリックス®と、HPV16、18型に尖圭コンジローマなどの原因となるHPV6、11型もターゲットにしているガーダシル®というワクチンがあります。
最も有効な接種年齢は初交前の10~14歳ですが、年齢に関わらずHPVに感染する前や、感染しているHPVが一度消失した後の再感染を防ぐことは可能です。ただし、感染しているHPVをワクチンで除去することはできません。
予防効果の持続期間は約7年間と言われていますが、ワクチン接種が子宮頸がん検診の代わりにはなりませんので、予防接種後も子宮頸がん検診は受けるようにしましょう。

日本ではHPVワクチンの接種は主に中学生の女子を対象に公費負担の制度が開始されていますが、成人女性や男性は自費診療になります。
また、2017年のNational Health and Nutrition Examination Surveyの調査によると、アメリカ人の男性の11.5%、女性3.2%に口腔HPV感染が認められたと報告されました。驚くべきことに、男性の方が4倍も多くHPVに感染していることが明らかになったのです。男性もHPV感染が原因で、肛門がん、陰茎がん、中咽頭がんなどの悪性腫瘍のほか、尖圭コンジローマも発症します。このようなHPV関連病変の予防を目的として、オーストラリアやメキシコなどでは、男性のHPVワクチンの接種が承認されています。日本でも、ホリエモンこと堀江貴文さんや、男優のしみけんさんなど、積極的に接種している男性の方もいらっしゃいます。
私も遅ればせながら、自分と大切な人のためにHPVワクチンを接種します!
しかし残念なことに、日本では、HPVワクチンで恐ろしい副作用が出るなどという全く科学的根拠のない情報に踊らされてワクチン接種が進んでいません。先進国の中でも大変恥ずべき現状なのです。
表:HPVワクチンの種類

HPV⑥

 

子宮頸がん検診とHPV検査はどのように受けたら良いの?

HPV検査とは、子宮頸がん検診と同じ方法で子宮頸部の細胞を採取してHPV感染の有無を調べる検査です。ハイリスクHPVとローリスクHPVを調べる検査があります。
これまでHPV感染が子宮頸がんや尖圭コンジローマの発生と関連があると述べてきました。では、子宮頸がん検診とHPV検査はどのように受けたら良いのでしょうか?
アメリカでは、30歳以上の女性は細胞診(子宮頸がん検診)とHPV検査を併用して受けるように勧められています。
細胞診はヒトの目で検査を行うため見逃される可能性がありますが、HPV検査は取りこぼしが少なく、もしHPV検査で陽性になった場合でも、今後病変が生じてくる可能性があるので、1年後に再検査を受けるように推奨されています。
また、ヨーロッパの主要国では、先にHPV検査を実施して、HPV陽性者に対して二次検査として細胞診(子宮頸がん検診)の実施を推奨する動きがみられています。
現状の日本では、細胞診で軽度病変疑い(ASC-US)となった場合に、HPV検査を受けることになっています。これは、細胞診の検査(子宮頸がん検診)が2年に1回助成されるため、その方が経済的であるためと考えられます。
しかしながら、子宮頸がんの早期発見のためには、HPV検査を先に受けても、細胞診と同時に受けても間違いではありません。
性交経験のある女性なら50%程度の人がハイリスクHPVに感染すると言われていますので、陰性の結果であれば、子宮頸がんワクチンの予防接種を受ける選択肢ができます。陽性であったとしても、子宮がん検診(細胞診)を受ける間隔を短くすることで、早期にがんを発見することにつながります。

HPV⑦

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