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2024.10.14

STDを防ぐ

特集

【タオルで感染って本当?】性感染症の感染経路、予防法についての解説

性感染症の感染経路や予防法に関しては、様々な情報が錯綜しています。

例えば、性感染症は風呂やタオルで移るのか?などです。

これらに関して、世界で最も信頼がある医療エビデンスの1つである【UpToDate】に基づいて、取り扱います。

 

*この記事は、世界で最も信頼性のあるメタアナリシス(様々な研究・文献を統合して判断すること)エビデンスの1つであるUpToDate(https://www.uptodate.com)をエビデンスとして記載しております。

↓UpToDateについてはこちらをチェック!↓
https://yoboukai.co.jp/article/2467

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性感染症の感染経路について

いずれの性感染症も性的接触においてのみ感染します。

風呂やタオルを介した感染というのは報告されていません。

例えば、トリコモナスはタオルでも生存すると言われていますが、タオルを介した感染は証明されていません(1)。

世界最高エビデンスの【UpToDate】によって、明確に表記されています。

 

私は、研究で淋菌をよく扱っていますが、生体外での生存力の弱さを実感しています。
少しでも室温に置くと死滅します。

生体外であれば、37度、5%CO2環境で栄養培地中でなければ生存できません。
だからこそ、非常に取扱いづらく、実験で苦労しています。

このように、性感染症病原菌はいずれも、生体外での生存力が弱いという特徴があります。
したがって、性的接触でのみ感染し、生体外環境を介した感染は起こりません。

一方、性的接触においては必ず挿入行為が必要ではなく、性器の接触があれば感染する可能性があります。

 

性感染症の予防法について

性感染症の予防方法は、ワクチン、コンドーム、予防薬の3つがあります。

性感染症予防ワクチン

A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、HPVに対して存在しています。

B型肝炎ウイルスに対するワクチンは現在、国内でも幼児期の定期接種となっています。

HPVに対するワクチンは、国内では子宮頸がんワクチンとして提供されています。
4価(カーダシル)、9価(シルガード9)のワクチンは、子宮頸がんのリスクとなるHPVだけではなく、尖圭コンジローマのリスクとなるHPVの感染を予防するものとなります。

コンドーム

様々な研究で有効性が計算されています。

HIVでは80~95%(2)、淋菌・クラミジア・トリコモナスでは82%、性器ヘルペスでは最大96%(3)、HPVでは70%(4)の感染予防効果が報告されています。

しかし、コンドームの使用は注意するべき点があります。
着用のタイミングは挿入前ではなく、性器と性器や口腔が接触する前から、すなわち性行為の最初から着用していないと予防効果が発揮されません

予防薬

まず、HIVの感染予防薬があります。
HIV治療薬のうち、テノホビル+エムトリシタビンという薬を毎日1錠ずつ服用することで、95%感染リスクを減少させます(5)。

しかし、この予防を国内で行おうとすると、月約10万円程度かかってしまいます。

コストを抑えるため、海外の薬を個人輸入して使用している方もおられるようですが、海外製品は医薬品工程の安全性水準が低いことも多く、最悪の場合は死亡の可能性があります。

つい最近も、インドで製造された咳止めシロップに有機溶媒が混入し、300人以上の子供が死亡しました(6)。
また、副作用が出た場合の治療は日本の保険診療の対象外となってしまいます。

性器ヘルペス感染者のパートナーにおいては、性器ヘルペス感染者が再発抑制療法(抗ヘルペス薬を毎日1錠ずつ服用する)を行うことによって、パートナーへの感染が予防されます。
いつまで行う必要があるかという議論点がありますが、ヘルペスの再発は時間とともに減少するため、毎年継続/中止について話し合う事が推奨されています。

小規模ながら、ビブラマイシンを連日1錠服用すると、淋菌・クラミジア・梅毒の感染リスクが低下したという報告があります(7)。
この方法を使用するには、耐性菌率の影響を含む長期的な効果が確立される必要があり、現時点では実験的アプローチにとどまっています。

また、日本では認められていませんが、米国においては、CDCの勧告に基づき、クラミジア・淋菌・トリコモナスと診断された患者さんのパートナーへの推定治療(Expedited Partner Therapy)が認められています(8)。

感染が発覚した患者さんのパートナーに対して、同様の治療を行うことで、パートナーの発症ならびに患者さんへの再感染を予防します。
薬剤耐性菌蔓延を防ぐため抗生物質の使用は控える傾向にありますが、特に有病率の高いクラミジアに関しては薬剤耐性の報告が未だないこと、他の治療薬もカルバペネムやバンコマイシンといった“切り札”的な薬剤ではないことなどからCDCでは「抗生物質の適正利用」であるとされています。

国内では認められていませんが、エビデンスに基づき、検討されるべきだと思います。

その他

これら以外に、エビデンスのある予防法は存在しません。

尿をたくさん出すこと、イソジンや膣洗浄液の使用などが、予防効果ありと謳われている事がありますが、いずれも世界最高のエビデンスUpToDateでは明確に否定されています。

そして、様々な予防方法がありますが、確実なものはありません。

そこで、安価・着用不要・副作用のない、バクテリオファージを用いた性感染症予防薬を予防会・早稲田大学・株式会社KMPhageで開発しています。

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まとめ

・性感染症は性的接触でのみ移る(風呂やタオルでの感染は証明されていない

・予防方法にはワクチン、コンドーム、予防薬がある(それ以外の予防法は証明されていない)

・淋菌・クラミジア・トリコモナス・梅毒のエビデンスのある予防方法はコンドーム着用のみだが、その効果は100%ではない→予防会において、コンドーム未着用でも効果のある予防薬を開発中

 

1) Crucitti T, Jespers V, Mulenga C, et al. Non-sexual transmission of Trichomonas vaginalis in adolescent girls attending school in Ndola, Zambia. PLoS One 2011; 6:e16310. 240.

2) Weller S, Davis K. Condom effectiveness in reducing heterosexual HIV transmission. Cochrane Database Syst Rev 2002; :CD003255.

3) Magaret AS, Mujugira A, Hughes JP, et al. Effect of Condom Use on Per-act HSV-2 Transmission Risk in HIV-1, HSV-2-discordant Couples. Clin Infect Dis 2016; 62:456.

4) Winer RL, Hughes JP, Feng Q, et al. Condom use and the risk of genital human papillomavirus infection in young women. N Engl J Med 2006; 354:2645.

5) Cohen MS, Chen YQ, McCauley M, et al. Antiretroviral Therapy for the Prevention of HIV-1 Transmission. N Engl J Med 2016; 375:830.

6) https://answers.ten-navi.com/pharmanews/24789/

7) Bolan RK, Beymer MR, Weiss RE, Flynn RP, Leibowitz AA, Klausner JD. Doxycycline prophylaxis to reduce incident syphilis among HIV-infected men who have sex with men who continue to engage in high-risk sex: a randomized, controlled pilot study. Sex Transm Dis 2015;42:98–103.

8) Centers for Disease Control & Prevention (CDC). Expedited Partner Therapy. August 20, 2015. http://www.cdc.gov/std/ept/

記事の執筆

著者情報 新宿サテライトクリニック 院長 北岡 一樹(きたおか かずき)

予防会 新宿サテライトクリニック 院長
株式会社KMPhage代表取締役

早稲田大学研究員(MD/PhD)

北岡 一樹(きたおか かずき)

三重大学医学部卒。初期研修修了後、内科勤務しつつ名古屋大学大学院医学系研究科細菌学博士課程修了。その後、薬剤耐性菌の研究のため、早稲田大学で研究開始。同時に医療法人社団予防会新宿サテライトクリニックで診療開始し、現在は院長を務めながら新たな性感染症予防薬創出のため「バクテリオファージ」の研究を進めている。本研究では東京都主催のコンテストで優秀賞を獲得、社会実装に向けバイオベンチャー「株式会社KMPhage」を起業。国内では数少ないカンジダ・細菌性膣症の予防の研究も行っており、臨床においても研究知見も含め「性器感染症予防」を専門として、世界的エビデンスUpToDateに基づいたデリケートゾーン専門外来も行っている。
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