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2020.07.14

カンジダ

細菌性膣症

イカ臭い原因!?これが謎の病気、細菌性腟症だ!!

「おりものの質が変わった」、「なんだか臭いがきつくなった」といったような症状があるときは、細菌性腟症の可能性があります。細菌性腟症とは、性感染症や細菌性腟炎とは異なり、腟のかゆみや痛みなどの症状よりも、おりものの量や臭いの方の症状が強いのが特徴で、放置しているとちょっと厄介なことになる・・・というお話です。

 

細菌性腟症とは?

細菌性腟症は、以前は非特異的腟炎と呼ばれ、性感染症の原因菌以外の菌によって起こる腟炎と考えられていましたが、現在は、腟の善玉菌である乳酸桿菌(Lactobacillus属の菌)が減少して、代わりにガードネレラ属の菌、ヘモフィルス属の菌、嫌気性菌やマイコプラズマ属、ウレアプラズマ属などが過剰に増殖し、これら複数の菌が「バイオフィルム」というものを形成して起こる病態として考えられています。

腟の善玉菌である乳酸桿菌は、腟内に多く存在するグリコーゲンを栄養源として乳酸を産生し、腟内を酸性(pH:3.8~4.5)に保つことで雑菌の侵入を防いでいます。

これを「腟の自浄作用」といいますが、何らかの原因で乳酸桿菌が減ってしまうと、腟内の酸性度が低下して、別の細菌(雑菌)が繁殖して腟内の細菌叢が乱れ、雑菌がタンパク質を分解して産生する物質(アミン)や毒素によって、イカ臭い・生臭いイヤなにおいが発生します。この状態が細菌性腟症になります1)。

 細菌性膣症①
図:腟の自浄作用(病気が見えるVol.10産科 第3版.P169 図引用)

 

症状

細菌性腟症は、女性全体の10~30%が罹患していると言われており、その半数は無症状なことが多いです。
おりものの性状は、灰色のスキムミルク様で多く、魚のような臭い、俗にいう「イカ臭い・生臭い」臭気が細菌性腟症の特徴的な症状です。おりものの増加が44%、下腹部痛が34%、不正出血が22%に見られるとの報告もあります。
細菌性腟炎の時と比べて、痛み、痒み、排尿時の違和感などの症状は軽度です。
腟内で異常に増殖した病原細菌が、子宮の方に上行感染すると、子宮内膜炎や卵管炎、骨盤腹膜炎などが起こり、不妊症の原因になることも指摘されています2)。

 

細菌性腟症の発症リスクと原因説

「細菌性腟症は性行為によって発症する」という論文が数多く存在するにもかかわらず、この説はまだ一般的に認知されていません。その理由は、従来の性感染症(淋菌・クラミジア・梅毒など)とは違う機序で発症すると考えられているからです。

 

<仮説1:腟内射精による腟内酸性度の変化が原因?>

健康な腟は、乳酸菌の働きによって酸性(pH:3.8~4.5)に保たれており、自浄作用があることを説明しました。しかし、この酸性の指標であるpHが4.5以上になると、有意に雑菌が増えるという報告があります3)。
では、腟の酸性が保てなくなる原因とは何でしょうか?
一つの仮説に、射精液の主成分であるアルカリ性の前立腺液が腟内に入ると、腟内のpHが上昇し、性交後8時間まで上昇したままであるという報告があります4)。腟内のpHが上昇することで、嫌気性菌が繁殖しやすい環境になり、細菌性腟症を発症するのではないか?というものです。
だったら、逆に、コンドームを付けたセックスで腟内に射精しなければ、細菌性腟症を防げるのではないか?という疑問がわきますが、コンドームを付けていてもつけていなくても細菌性腟症は同程度発症するという報告5)もあり、この仮説は細菌性腟症の決定的な原因とは言えないようです。

 

<仮説2:肛門や会陰近くの菌が腟内へ移動することが原因?>

何らかの方法で、肛門周囲、会陰付近の菌が腟へ移動して、細菌性腟症を誘発する可能性について興味深い報告があります。この仮説の重要な要因として、セックスの頻度が考えられています6)。セックスの後、腟の自浄作用が回復するまでには時間かかります。しかし、自浄作用が回復するまでの間に、頻回に性行為があることで細菌性腟症が起こると考えられます7)。これを裏付けるものとして、特定のパートナーとの性行為だけでも、男性パートナーのペニスや尿道にいる菌と同じ菌が腟から検出されることや、パートナーが女性同士でも同じ菌を共有して細菌性腟症を発症するケースなどが報告されています8)9)10)11)12)。

このように病因については、完全には解明されていませんが、次の場合、細菌性腟症の発症リスクとして考えられています。

【表】細菌性膣症①-1

 

検査・診断

細菌性腟症はおりものの検査でわかります。

WHOによる診断基準(Amselの診断基準)と、腟分泌物のグラム染色を用いたNugent Scoreがあります。
近年は、より主観的要素の少ないNugent Scoreの方が汎用されています。

【表】細菌性膣症②

【表】細菌性膣症③

細菌性腟症の方のおりものをグラム染色して顕微鏡で見ると、善玉菌である乳酸菌の数は減少し、かわりに複数の細菌類が集合し、腟の上皮細胞の周りを膜のように覆っている状態(clue cell)が確認できます。また、細菌性腟炎のときに観察される白血球などの炎症細胞が少ないのが特徴です。あたかも、「いろいろな雑菌同士が手をつなぎ、一致団結して乳酸菌を追い出し、悪さをしている状態」に見えます。

一方、細菌性腟炎のときは、雑菌とともに炎症細胞が多くみられます。なぜ細菌性腟症では白血球があまりみられないのか?については、細菌性腟症に関わっている細菌と炎症性サイトカインIL-8との関連が指摘されています(難しい話になるので割愛します)。興味のある方は、以下の論文を参考にどうぞ。

・Cauci, S., Guaschino, S., de Aloysio, D. et al. Interrelationships of interleukin‐8 with interleukin‐1beta and neutrophils in vaginal fluid of healthy and bacterial vaginosis positive women. Mol. Hum. Reprod. 2003;9: 53–58.

・Cauci, S. Vaginal immunity in bacterial vaginosis. Curr. Infect. Dis. Rep. 2004; 6: 450–456.

 

予防会では、その場で腟分泌物をグラム染色し、顕微鏡で観察して迅速診断しています。予防会の「カンジダ検査」の項目には、細菌性腟症の検査項目が含まれています。菌の種類までは判明しませんが、所要時間5~10分で細菌性腟症、細菌性腟炎、カンジダ腟炎、トリコモナス腟炎の診断ができますので、適切なお薬で検査当日から治療することができます。

 

一方、通常の産婦人科や性感染症のクリニックでは、顕微鏡検査をしないところが多いので、腟分泌物の培養検査で調べます。この場合、菌の培養に4~5日間、結果判明までに1週間近くかかります。

細菌性膣症⑥

・当クリニック検査室のグラム染色標本作成用染色液

 

実際の症例をみてみよう!

実際に来院された患者さんのおりものを顕微鏡で見てみました。

①「特に変わった症状は無い」という、定期的に性感染症検査に来院の方。

 

細菌性膣症③

腟の善玉菌である乳酸桿菌(青く染まる長めの細長い菌)が多数みられ、Nugent Score:1点で、正常です。

 

②「かゆみを伴う生臭いにおいが気になる」を主訴に来院の方。

 

細菌性膣症④

・おりものpH≧5。
・腟の善玉菌である乳酸桿菌はほとんど見当たらず、カンジダの菌糸(青く染まる糸状の構造物)とグラム陰性球菌(赤く染まる球状の菌)、グラム陽性小桿菌(青く染まる楕円形の菌)などの様々な菌で形成された菌塊が、腟の上皮細胞を覆っているclue cellが確認でき、Nugent Score:9点で細菌性腟症の診断です。

 

③「腟の中が熱くてかゆい、おりものが黄色くて多い、においもキツイ」を主訴に来院の方

 

細菌性膣症⑤

中心の核が紫色に染まる白血球(炎症細胞)が多数出現している。白血球の細胞の中には、赤く染まる球菌(グラム陰性球菌)や青く染まる桿菌(グラム陽性桿菌)が多数みられ、白血球が菌を貪食している様子がうかがえ、細菌性腟炎の所見です。
膣に炎症がおきていますので、腟の熱感、痒みの症状が現れます。

 

治療

現在のところ、日本で安全に使用できる抗生物質薬剤は、メトロニダゾール(フラジール腟錠®やフラジール内服錠®)です。フラジール腟錠は、トリコモナス腟炎の時にも使用しますが、嫌気性菌にも効果があり、かつ、善玉菌の乳酸桿菌に対して殺菌作用は少ないので、腟の細菌叢を整える働きがあります。

一方、クロラムフェニコール腟錠(クロマイ腟錠®)は乳酸菌まで殺菌してしまうため、腟の自浄作用が損なわれる可能性があります。
生理食塩水による腟洗浄は、一時的におりものの悪臭やかゆみを改善しますが、頻回にすると、かえって腟内の細菌叢を破壊し、骨盤腹膜炎のリスクになると言われています13)。

ホウ酸は腟炎の治療に古くから使用されてきた薬剤の1つですが、フラジール腟錠にもホウ酸は含まれています。
しかし、抗生物質による治療は細菌性腟症に対して完全に有効ではなく、再発は1か月以内に約20%、1年以内に50%と言われています14)。このように再発しやすいので、抗生物質の代わりになる治療法の研究が多く報告されています。

腟の酸性化剤または緩衝剤による治療、植物由来の化合物による治療、抗生物質とプロバイオティクスの併用による治療など、種々の研究があります。

その中でも、腟の善玉菌である乳酸菌の自浄作用に注目した研究が多く、海外では乳酸菌サプリや乳酸菌腟錠、乳酸菌含有ジェルなどを抗菌薬腟錠と併用したところ一定の効果があったという報告があります15)。以前、日本にも乳酸菌腟錠がありましたが、現在は医療用の乳酸菌腟錠はありません。

 

細菌性腟症に関して将来的に心配なこと

細菌性腟症は、臭いが気になって外出を躊躇ったり、スカートが履けなくなるなど、女性のQOL低下をもたらす重要な問題として捉える必要があります。また、菌が上行性に子宮や卵管、骨盤内へ波及すると、不妊症の原因にもなります。近年、妊娠中の細菌性腟症と、流早産の原因である絨毛膜羊膜炎について関連性が注目されており、細菌性腟症の妊婦は、正常の妊婦に比べて、早産率が2倍以上高くなることが明らかになっています。細菌性腟症によって早産で出生した場合、産まれた赤ちゃんが肺炎や敗血症、髄膜炎を発症することもしばしばあります。産後は、産褥熱の原因としての関係も指摘されています16)17)。

細菌性腟症の病因は解明されていない部分が多いので、謎が多い病気ですが、現在のところ、性感染症ではなく、性行為関連疾患(Sex associated disease)と考えられています。
現在利用できる治療法は、一時的に症状を緩和することはできても、しばらくすると再発する可能性もあります。したがって、もともと備わっている腟の自浄作用を損なわないように、性行為の頻度や、食生活、睡眠、生活リズム、喫煙習慣などを見直すなど、細菌性腟症のリスクを回避することも重要であると考えます。

 

(参考文献)

1) 齋藤 滋. 細菌性腟症についての最新の話題. 感染症TODAY. 2014.
2) 性感染症診断・治療ガイドライン2016. 日本性感染症学会誌. 2016. Vol.27, No1 Supp. P77-80.
3) Amsel, R., Totten, P.A., Spiegel, C.A. et al. Nonspecific vaginitis. Diagnostic criteria and microbial and epidemiologic associations. Am. J. Med. 1983. 74: 14–22.
4) McGregor, J.A. and French, J.I. Bacterial vaginosis in pregnancy. Obstet. Gynecol. Surv. 2000; 55: S1–S19.
5) Verstraelen, H., Verhelst, R., Vaneechoutte, M. et al. The epidemiology of bacterial vaginosis in relation to sexual behaviour. BMC Infect. Dis. 2010; 10: 81.
6) Vallor, A.C., Antonio, M.A., Hawes, S.E. et al. Factors associated with acquisition of, or persistent colonization by, vaginal lactobacilli: role of hydrogen peroxide production. J. Infect. Dis. 2001; 184: 1431–1436.
7) Verstraelen, H., Verhelst, R., Vaneechoutte, M. et al. The epidemiology of bacterial vaginosis in relation to sexual behaviour. BMC Infect. Dis. 2010. 10: 81.
8) Liu, C.M., Hungate, B.A., Tobian, A.A.R. et al. Penile microbiota and female partner bacterial vaginosis in Rakai, Uganda. mBio. 2015; 6: e00589‐15.
9) Zozaya, M., Ferris, M.J., Siren, J.D. et al. Bacterial communities in penile skin, male urethra, and vaginas of heterosexual couples with and without bacterial vaginosis. Microbiome. 2016; 4: 16.
10)  Evans, A.L., Scally, A.J., Wellard, S.J. et al. Prevalence of bacterial vaginosis in lesbians and heterosexual women in a community setting. Sex. Transm. Infect. 2007; 83: 470–475.
11)  Bradshaw, C.S., Walker, S.M., Vodstrcil, L.A. et al. The influence of behaviours and relationships on the vaginal microbiota of women and their female partners: the WOW health study. J. Infect. Dis. 2014; 209: 1562–1572.
12)  Vodstrcil, L.A., Walker, S.M., Hocking, J.S. et al. Incident bacterial Vaginosis (BV) in women who have sex with women is associated with behaviors that suggest sexual transmission of BV. Clin. Infect. Dis. 2015; 60: 1042–1053.
13)  日本産婦人科学会・日本産婦人科医会編集監修. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020. P19-20.
14)  Bradshaw, C.S., Morton, A.N., Hocking, J. et al. (2006). High recurrence rates of bacterial vaginosis over the course of 12 months after oral metronidazole therapy and factors associated with recurrence. J. Infect. Dis. 193: 1478–1486.
15)  Cohen, C.R., Wierzbicki, M.R., French, A.L. et al. Randomized trial Lactin-V to prevent recurrence of Bacterial vaginosis. N Engl J Med. 2020; 14; 382(20): 1906-1915.
16)  Leitich, H., Bodner-Adler, B., Brunbauer, M., et al. Bacterial vaginosis as a risk factor for preterm delivery: a meta-analysis. Am J Obstet Gynecol. 2003; 189(1): 139-147.
17)  Romero, R. Mazor, M. Infection and preterm labor. Clin Obstet Gynecol. 1988; 31(3): 553-584.

 

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