カンジダ
細菌性膣症
2021.01.15
カンジダ
細菌性膣症
外陰腟カンジダ症は、腟炎の原因としては、細菌性腟炎に次いで2番目に多い原因であり、腟炎の症例の約3分の1を占めます。
患者さんからは、「治療したのに、また再発しました」や、「免疫が低下したから再発するのですか?」など、よく質問されます。
外陰腟カンジダ症は、なぜこのように繰り返し症状が現れるのでしょうか?
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外陰腟カンジダ症の原因であるカンジダは、真菌(カビ)に属し、淋菌やクラミジアのような細菌とは全く別モノです。湿気の多いところで育ち、「酵母→菌糸→胞子」という一つの生物界を形成しています。
真菌の王様は「キノコ」ですが、パンを作るときに使うイースト菌や酵母も真菌です。
このように、ヒトは大昔から、真菌の生態を利用して食品を作ったり、真菌の塊であるキノコを食べたりしていますので、私たちにとって、真菌はとても身近な存在です。
ちなみに、カンジダは、真菌の種類の名前で、ヒトで言うところの名字になります。
実はカンジダという名字の真菌は300種類以上あり、味噌や醤油の発酵に使われるカンジダもありますが、ヒトに対して病原性を発揮するカンジダは少数です。
外陰腟カンジダ症の原因の9割ほどはカンジダ・アルビカンス(C. albicans)という名前のカンジダです。残りは、非アルビカンスとよばれる種類のカンジダ・グラブラタ(C. glabrata)やカンジダ・パラプシローシス(C. parapsilosis)という名前のカンジダなどになります。
最近は、市販のカンジダ腟錠の普及により、市販薬の効きづらい非アルビカンスのカンジダが増えてきているという報告もあります。
ヒトが生活しているところには必ず真菌が存在しているので、ヒトは真菌に対して強力な防御機構(皮膚や粘膜の角質での防御と免疫による防御)を備えています。
したがって、この防御機構が備わっている方は、カンジダを保菌していても症状が現れません。女性の5人に1人は無症状でカンジダを腟に保菌していると言われています。
ある調査では、25歳までの女性の55%は、病院で外陰腟カンジダ症と診断された経験があると報告しています。
また、別の調査では、25歳までの女性の10%、50歳までに25%が、1年間に4回以上の再発性外陰膣カンジダ症(RVVC)になっていると報告しています。
症状のある方は、カンジダが腟で増殖し、さらに石鹸やタオルの摩擦や性行為によってできる皮膚や粘膜の細かい傷から侵入(角質での防御機能が破綻)して炎症が起こり、症状が現れると考えられています。
外陰膣カンジダ症の主な症状は外陰部・腟の掻痒感です。その他に、外陰部や腟の灼熱感や痛み、排尿時痛や性交時痛があります。月経前の1週間は症状が悪化することがよくあります。
見た目には、外陰部と腟粘膜の発赤と外陰部の腫れがみられることがあります。外陰部の擦過傷と裂傷は、約4人に1人の割合で見られます。
特徴的なカッテージチーズ状のおりものは、すべての人に見られるわけではなく、水っぽいタイプのおりものとしてみられる時もあります。
1)糖尿病の基礎疾患のある方
血糖コントロールが不十分な場合、正常血糖の方よりも外陰腟カンジダ症になりやすいです。
特に、2型糖尿病の方は、非アルビカンスカンジダ種になりやすいと言われています。
糖尿病の男性の方も、カンジダにかかりやすいと言われています。
2)抗生物質を服用した方
広域抗生物質の使用は、外陰腟カンジダ症を発症するリスクを大幅に増加させます。
抗生物質の服用によって正常な腟細菌叢が壊され、真菌などの病原体の増殖が促進されます。
抗生物質の服用中または服用後の女性の4人~3人に1人の割合で発症します。
3)エストロゲン過多の方
外陰腟カンジダ症は、妊娠によるエストロゲン分泌の上昇や閉経後のエストロゲン療法など、エストロゲンレベルが上昇した状況でより頻繁に発症します。
経口避妊薬の服用は、外陰腟カンジダ症と関係はないと考えられています。
4)免疫抑制剤使用中の方
カンジダ感染症は、長期のステロイド薬や免疫抑制薬を服用している方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症などの免疫が低下している方にもよく見られます。
5)遺伝的要因のある方
再発性外陰腟カンジダ症(RVVC)のヨーロッパ人女性160人と同じ地域の対照女性175人の遺伝子学的解析によって、先天的にカンジダに対する細胞性免疫が低い方々いることを認めたという報告があります。
遺伝的要因を調べる検査は、日本ではまだできません。
6)避妊器具を使用中の方
腟への海綿挿入、ペッサリー、子宮内避妊器具(IUD)は、外陰腟カンジダ症の発症に関連しています。
このような腟や子宮内の異物にカンジダが付着して繁殖するので、外陰腟カンジダ症をくり返す方は、避妊器具を抜去すると治る場合があります。
7)性行為について
外陰腟カンジダ症は、性交経験の無い女性にも発生しますので、性感染症とはみなされていません。
しかし、性行為を経験すると、外陰腟カンジダ症の頻度が増加するので、性行為関連疾患として位置づけられています。
しかし、性的パートナーの数や性交の頻度とは関係が無いと言われています。
カンジダは口腔内や腸の常在菌であるため、オーラルセックスやアナルセックスによって発症する可能性があります。
外陰腟カンジダ症と衛生用品(腟洗浄液、タンポン・生理用ナプキン)の使用や、タイトな下着や合成繊維の下着着用は多少関係があるとされています。
8)乳酸菌の減少について
細菌性腟炎の場合は、乳酸菌の減少と関係がありますが、外陰腟カンジダ症の場合は、乳酸菌の減少とは関係なく発症します。
9)再発性のカンジダ
再発性外陰腟カンジダ症(RVVC)は、1年に症状が4回以上繰り返す場合に診断します。
RVVCの割合は5%程度と言われています。
カンジダは、腸や口腔内では常在菌として存在しているので、自分の腸管にいるカンジダが、肛門から外陰部を経て新たに腟に再感染する場合や、口腔内にいるカンジダが、オーラルセックスによって、あらたに腟に再感染する場合などがあります。
1)顕微鏡検査
おりものを採取し、グラム染色あるいは、10%の水酸化カリウムを添加して顕微鏡で観察します。カンジダ感染症の女性の腟のpHは通常正常(4〜4.5)であり、細菌性腟炎はpH(4.5以上)、トリコモナス腟症の場合はpH(5~6.0)です。細菌性腟炎の方の20~30%はカンジダとの重複感染が見られます。
顕微鏡検査の利点は、迅速に診断できることです。欠点は若干の見逃しがあることです。
2)培養検査
おりものを採取して、カンジダ専用の培地で培養して判定する検査です。難治性の場合にはカンジダの菌種を特定するために有用です。欠点は、結果が判明するまで4~5日かかることです。
実際の臨床では、外陰腟カンジダ症の原因菌は、9割がC. albicansと言われているので、顕微鏡検査のみでC. albicansに効果のあるお薬を処方して治る場合がほとんどです。
痒みやおりものの異常がある場合は、治療が必要になります。無症状の女性や男性パートナーの治療は必要ありません。
1)腟錠による局所療法(連日投与法)
・クロトリマゾール®腟錠(100mg)1回1錠 1日1回(就寝前)6日間
・オキナゾール®腟錠(100mg)1回1錠 1日1回(就寝前)6日間
・フロリード®腟坐剤(100mg)1回1錠 1日1回(就寝前)6日間
など。
他にもいろいろな種類の腟錠があります。
1回の使用で1週間効果のあるタイプの腟錠(オキナゾール腟錠600mg)もありますが、連日投与法の方が、治療効果が高いとの報告があります。
局所療法後に症状が改善しない場合は、腟錠の種類を変更して治療します。腟錠の副作用は、ほとんどありません。
2)経口薬による治療
・フルコナゾール®カプセル(50mg)1回3錠 単回投与
腟錠に比べて経口薬の便利な点が好まれますが、症状を和らげるまでに腟錠よりも1~2日ほど長くかかります。しかし、経口薬は嘔気、頭痛、発疹、一過性の肝機能異常などの副作用を引き起こす可能性があり、さらに妊娠中と授乳中は内服薬の投与は禁忌になっています。
3)抗真菌薬の外用薬
・エンペシド®クリーム 1日2~3回 5~7日間
・オキナゾール®クリーム 1日2~3回 5~7日間
など。
外陰部の痒み、発赤などがある場合には外陰部に塗布します。大陰唇より外側に炎症が波及している場合は、皮膚科領域の軟膏などが必要になることもあります。
男性のカンジダ亀頭包皮炎の治療も外用薬による治療になります。
4)難治性外陰腟カンジダ症の治療
フルコナゾール150 mgを72時間ごとに3回投与する初期導入後、週1回の6か月間の維持療法を行うことで、治療中は再発を減らすことができますが、中止すると再発する可能性はあります。この場合、肝機能異常に注意しながらおこなう必要があります。
かゆみなどの自覚症状とおりものの性状が改善したら治癒と判定します。
性感染症ではないので、治癒判定のための検査は必要ありません。
治療中は、外陰部を清潔に保つことが重要ですが、皮膚や粘膜を刺激するような石鹸の使用は避けた方が良いです。
性行為も、症状を悪化させ、治癒までの期間を遅らせる原因になりますので、完治するまでは局所の安静が必要です。
治療期間は約1週間です。1週間経っても症状が治まらない場合は、別の原因を考える必要があります。
最近は、カンジダ腟錠をドラッグストアで購入できるようになり、自己診断で治療できるようになりました。ところが、自己診断で市販のカンジダ腟錠を使用しても改善しない場合も多く、その場合は、自己診断が誤診している可能性があります。
外陰腟カンジダ症を自己診断した95人の女性の実際の診断は、外陰腟カンジダ症(34%)、細菌性腟炎(19%)、混合性腟炎(21%)、正常な細菌叢(14%)、トリコモナス腟症(2%)だったという報告があります。この他にも、クラミジア感染症、淋菌性腟炎、マイコプラズマ感染症の症状の可能性もあります。自己診断で誤診した場合、正しい診断と治療が遅れることで、結果的に無駄な支出をすることになりますので、なるべく早期に医療機関を受診するようにしましょう。
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