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2021.08.15

淋菌

治りにくく、放置するとさらに治りにくくなることもある性感染症の咽頭感染

性感染症の中で薬の有効率が低く、加えて、放置期間が長くなると、より有効率が低下してしまう疾患として、咽頭感染があります。それらの理由を中心に説明していきます。

性感染症の咽頭感染について

性感染症は性器にしか感染しないと思われている方が多いかもしれません。実は性器以外にも感染します。一般的に感染症において、病原体の感染する部位は決まっています。病原体は接着因子というものを持っていて、それにより感染するため、感染する部位によって接着しやすさが異なり、病原体が感染する場所が決まります。性感染症の病原体はどれも粘膜に接着しやすいという特徴を持っており、多くが粘膜同士の直接接触により移行します。

また、「粘膜」という言葉自体はよく耳にされると思いますが、なかなかその言葉が示す解剖的部位は一般的には明確に認識されていません。体の中で、外界と面している部分は全て粘膜です。粘膜は、粘液を分泌しつつ、臓器が損傷することを防ぐ役割をしています。具体的な部位としては、目、口腔、消化管、肺、尿道、膣、子宮などの表面です。

したがって、性感染症の病原体は、理論的には、目、口腔、消化管、肺、尿道、膣、子宮全てに感染できます。しかし、粘膜と粘膜が直接接触するような部位で感染が成立しやすいので、尿道、膣、子宮、口腔、直腸が主な部位となります。そして、以上からわかるように、性感染症病原体が口腔に感染するのは、オーラルセックスをした場合や、ディープキスをした場合となります。感染が成立するには、粘膜同士が強く接触する必要があるので、性感染症の咽頭感染は、尿道に性感染症病原体を保持している男性の陰茎に対してオーラルセックスをした場合がほとんどであり、膣に性感染症病原体を保持している女性に対してオーラルセックスをした場合ではあまり感染せず、ディープキスによる感染はほとんどないと言われています(1)。

上記のように、性感染症の咽頭感染は、基本的にはオーラルセックスのみであるため、感染機会は多くはありません。しかし、もともと有病率の高い淋菌やクラミジアにおいては、比較的高い有病率を示し、問題となっています。例えば、淋菌の咽頭感染率に対するある報告では、2-5%であったと述べられています(2)。

 

性感染症の咽頭感染における症状

 性感染症の咽頭感染によって、症状を引き起こすことはほとんどありませんが、病原性の強い淋菌は稀に咽頭炎を引き起こし、喉の痛み、痰、頸部リンパ腫脹といった症状が現れることもあります。しかし、あくまで“稀”であり、一般内科に、喉の痛みを訴えて来院した192人のなかで、1%のみが淋菌の咽頭培養陽性で、原因と考えられたという報告があります(3)。私も、オーラルセックス経験後、咽頭痛がしてきたために、性感染症の咽頭感染を疑って来院される方に度々遭遇しますが、実際に咽頭から性感染症病原体が陽性であったことはほとんどなく、ほとんどの場合において風邪でした。

したがって、問題となるのは、咽頭炎を引き起こすことよりも、咽頭に保菌される性感染症病原体がオーラルセックスで性器感染を引き起こしてしまうことです。性器感染を引き起こせば、骨盤内炎症疾患という重篤な病気や、不妊の原因となってしまいます。また、この場合、性感染症の咽頭感染がほとんど無症状であることが、マイナスに働きます。ほとんど無症状ということは検査しないと判明しないため、検査しない限り、その人が永続的に性感染症病原体を広めるスプレッダーになってしまいます。

 このような現状から、性感染症の拡散を防ぐためには、定期的な性感染症の咽頭検査が必要です。

 

性感染症の咽頭感染に対する治療

性感染症の咽頭感染の場合も、治療方法は、ガイドライン上は通常の性器感染の場合と同様です。しかし、様々な理由から有効率が低下するという落とし穴があります。

・咽頭感染は見つけられにくく、長期間保菌されることが多くなるため、特に薬剤耐性遺伝子を獲得しやすい特徴を持つ淋菌において、咽頭の共生細菌から薬剤耐性遺伝子を獲得し、薬の効果を低下させることがあります(4)。したがって、定期的な性感染症の咽頭検査により、早く見つけて治療することが重要となります。

・解剖学的に、咽頭はワルダイエル咽頭輪という複雑な構成を取るため、性感染症病原体が深部まで進行し、薬が効きにくくなることがあります。

・ほとんど無症状ということは、炎症を引き起こしていないということになります。一般的に炎症があるところほど抗菌薬が浸透しやすくなり、効きやすくなるため、炎症がない咽頭に対する薬の効果は低くなります(5)。

・咽頭は食物など様々な物質が通過する部位なので、免疫の力が弱められており(免疫寛容と言います)、他の粘膜部位より免疫による菌の排除システムが弱くなっています。

 実際に有効率の低下を示す例として、淋菌において、多数の臨床データを集めて比較した報告があり(メタアナリシス解析と言います)、標準的な治療法において、尿路感染症の治癒率は98%であったのに対し、咽頭感染症の治癒率は79%でした(6)。

 したがって、実際に性感染症の咽頭感染を治療する際には、様々な文献を基にして、治療にアレンジを加える場合があります。そのため、性感染症に関する詳細な知識と豊富な疾患数から治療法に関して検討できる医療機関での治療をオススメします。

 

まとめ

 性感染症の咽頭感染は、

 

ほとんど無症状

→拡散してしまう、耐性化が進んで薬が効きにくくなる→定期的な性感染症の咽頭検査が必要

 

治療にはアレンジが必要なことも

→性感染症に関する詳細な知識と豊富な疾患数から治療法に関して検討できる医療機関での治療をオススメ

 

1) Wiesner PJ, Tronca E, Bonin P, Pedersen AH, Holmes KK. Clinical spectrum of pharyngeal gonococcal infection. N Engl J Med. 1973 Jan 25;288(4):181-5.
2) Chan PA, Robinette A, Montgomery M, Almonte A, Cu-Uvin S, Lonks JR, Chapin KC, Kojic EM, Hardy EJ. Extragenital Infections Caused by Chlamydia trachomatis and Neisseria gonorrhoeae: A Review of the Literature. Infect Dis Obstet Gynecol. 2016;2016:5758387.
3) Komaroff AL, Aronson MD, Pass TM, Ervin CT. Prevalence of pharyngeal gonorrhea in general medical patients with sore throats. Sex Transm Dis. 1980 Jul-Sep;7(3):116-9.
4) Unemo M. Current and future antimicrobial treatment of gonorrhoea – the rapidly evolving Neisseria gonorrhoeae continues to challenge. BMC Infect Dis. 2015 Aug 21;15:364.
5) Najjar TA, Alkharfy KM, Saad SY. Mechanism and implication of cephalosporin penetration into oropharyngeal mucosa. J Infect Chemother. 2009 Apr;15(2):70-4.
6) Moran JS. Treating uncomplicated Neisseria gonorrhoeae infections: is the anatomic site of infection important? Sex Transm Dis. 1995 Jan-Feb;22(1):39-47.

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記事の執筆


著者情報 新宿サテライトクリニック 院長 北岡 一樹(きたおか かずき)

予防会 新宿サテライトクリニック 院長
早稲田大学招聘研究員

北岡 一樹(きたおか かずき)

三重大学医学部卒業後、同大学医学部附属病院で研修を行った後、内科勤務しながら、名古屋大学大学院細菌学博士課程へ入学。薬剤耐性菌研究に携わり、博士(医学)取得。
その後、早稲田大学で招聘研究員として研究を開始。同時に、医療法人社団予防会新宿サテライトクリニックで性感染症診療も開始し、現在、院長を務めている。
性感染症について診療だけでなく研究も行っており、ファージを用いた性感染症予防の実現(性感染症予防のゲームチェンジャー)に取り組んでいる。

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